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教養教育を開発・改革し
世界に教育モデルを発信する
山本泰(やまもと・やすし)教授

駒場キャンパスの教養学部では、教養教育開発機構(KOMED)が牽引役を果たし、教養教育の開発・改革を進めています。サイエンスラボやライティングセンターなど、次々と斬新な教育プログラムを開発するほか、学生が自ら考え理解する過程を重視した能動型の授業を実現するモデル教室「KALS」を開設しました。今年度からは、討議力養成プログラムを開発し、学生の討議力アップに取り組んでいます。さらに、理想的な教育を実現する「理想の教育棟」の建設にも乗り出しました。一連の事業の狙いは、与えられた課題をそつなくこなす「優等生」タイプの多い東大生から、自ら新しいことを切り拓く、社会のリーダーを育むことです。

東京大学が目指すのは、「国際標準」で「先端の研究とリンクした」教養教育です。舞台となる駒場キャンパスの教養学部(1)は、文理横断型の教育で、グローバルCOEなど最先端の研究を教養教育に直結させていることを特色としています。

その教養教育の牽引役を果たしているのがKOMEDです。東大の教養教育開発にとどまらず、教養教育のモデルを世界に発信することや、全国の大学の教育改革に貢献することも目標に掲げています。

「教授法が違えば、教室に
求められる機能が変わるのは当然」

「目指すのは、テーラーメイドの教養教育」とKOMED執行委員会の山本泰教授は語ります。「3,000人の学生を対象にしながら、多種多様な学生のニーズに対応する教養教育を提供する。それがこれからの教養教育のテーマです」

KOMEDはこれまで、サイエンスラボ(2)ライティングセンター(3)などのプログラムを開発し、教養教育の改革を進めてきました。一昨年には、ICT支援型協調学習教室「駒場アクティブラーニングスタジオ(KALS)(4)」を開設し、能動型授業の開発に取り組んでいます。

KALSとはIT技術を駆使し、教員と学生、学生相互のインタラクティブな対話を実現する新しいタイプの教室です。12メートル四方の教室には、組み合わせ方によって2~6人のグループワークができるようにデザインされた机が用意され、授業のスタイルに合わせて自由に教室をレイアウトできるよう工夫されています。学生1人に1台、無線LANシステムで繋がっているタブレットPCが用意され、教員のガラスボード(スクリーン)への書き込みや他の学生のPC画面を自分のPCに読み込んだり、自分の画面を送信したりと、情報のやりとりを自在に行えます。学生のPCの画面を計16台まで、四方の壁面に配置されたスクリーンに映し出すこともできます。

山本教授は語ります。「能動型学習(アクティブラーニング)とは、知識を系統的に伝授する教育ではなく、学生が自分で考えて理解するプロセスを重視する教授法です。教授法が違えば、教室に求められる機能が変わるのは当然で、KALSは能動型学習を支援するために設計した理想的な教室だと自負しています」

今年度からは、学生の討議力育成に取り組んでいます。討議力養成プログラムは、教員に働きかけ、授業に学生同士や学生対教員の討論を取り入れる取り組みで、討論を学ぶのではなく、「討論を通して学ぶ」のが特徴です。

「討論を通して学ぶ」

授業の冒頭に、学生に前回の授業の要点を発表させ、それについて議論する方法や、ミラーリング(5)など、効果的な手法を教員に提案しています。

さらに、プログラム活性化の仕掛けとして、討論がしやすいように可動式の机と椅子をコの字型に配置した、ディスカッション型の教室を6室作りました。教室の使用率はほぼ100%近くに達しています。

討議力養成は、学生の“要望”でもありました。一昨年、前期課程を終えた学生に「教養教育の達成度についての調査」を実施したところ、学問的知識や論理的・分析的に考える力については、8割前後の学生が「身についた」と思っていたのに対し、「他者と討論する力」は身についていないと思う学生が8割を超えていたのです。

「一人っ子が増え、テレビゲームなどで個の時間を過ごすことが多くなった世代には、かつては成長過程で自然に身についていた討議力が身についていません。学問はもちろん、社会でも必須の能力であり、教授できるスキルですから、プログラムを開発することにしました。1学期の間に、すべての学生が少なくとも一つは討論を取り入れた授業を受講できるようにすることが当面の目標です。討論を通して学ぶことを東大教養学部の文化に育てたいと考えています」と、山本教授は語っています。

利用から滞在へ
学習から学問へ

KOMEDでは「理想の教育棟」の建築にも取り組んでいます。担当の永田敬教授は「理想の教育を実現する建物で、利用から滞在へ、学習から学問への転換を期します」と、その狙いを説明しています。

理想の教育棟は(1)「アクティブラーニングスタジオ」(2)「オープンコミュニケーションスタジアム」(3)「教育空間デザインプログラム」(4)「基礎・先端融合サイエンスラボ」の4つの空間で構成されます。

(1)はKALSを9ルーム配置した授業空間で、アクティブラーニングを推進する舞台です。(2)はオープンスペースで、留学生との交流や、パフォーマンス、デモンストレーションなどの場として異文化交流や留学生支援の役割を果たします。(3)はすり鉢状の講義室とする予定で、学内外から講師を招く、知の空間となります。(4)は物理・化学・生命科学の実験施設ですが、同じ空間に研究施設を併設し、最先端の研究に間近に触れながら、基礎的な実験を学ぶことができる実験室とする計画です。建設は、(1)と(2)を一期棟として先行し、2011年4月オープンの予定です。

閉塞状況にある乱世を切り拓く
社会のリーダーを育てる

KOMEDが推進する一連の教育プログラムの狙いについて、山本教授は次のように語っています。「東大生には定型的な仕事を着実にこなすのは得意だけれど、自ら新しいことを切り拓くのは苦手というタイプが多く見られます。が、格差や不平等が広がる閉塞した社会状況の続く“乱世”は、時代を切り拓くリーダーを求めています。これまで進めてきたアクティブラーニングも、討議力養成も、理想の教育棟建築も、自分で事実を確かめ、他者を理解し、他者を説得して社会を動かすリーダーの素養を育てることを目指してのプログラムなのです」

 

 

 

教養教育開発機構 「駒場アクティブラーニングスタジオ(KALS)」
討議力養成プログラム  理想の教育棟
<理想の教育棟>のコンセプト
(1)教養学部 全学の1、2年生が学ぶ前期課程と、3、4年生が学ぶ後期課程(専門課程)で構成され、後期課程では学際的な教育が提供されている。教養学部を基礎とする大学院総合文化研究科も同じキャンパスに設置され、グローバルCOEに象徴される最先端の研究が学部教育に還元されている。
(2)サイエンスラボ 「科学する心と力を養う」ための科学実験と実習の自然科学導入プログラム。これまでに、約40種類に及ぶ基礎実験予習・復習用のDVDを製作。
(3)ライティングセンター  言語教育の基礎の「書く技能」を養成するプログラムの開発を行なう。ものごとを分析的に理解し論理的に思考して表現する能力を養うのが狙いで、科学論文を書く技能を培う「理系アカデミック・ライティング・コース」も開講。理系新入生の必修科目で、科学論文に特化したライティング講座は、全国的にも先進的な試み。
(4)KALS(駒場アクティブラーニングスタジオ)  個別学習と協調学習の同時進行を可能にするタブレットPC(40台)、インタラクティブガラスボード、パーソナルレスポンスシステムなどの最新のICT環境を実装し、2~6名を単位とするディスカッション・グループワーク、デスクトップ実験、アーカイブ検索やシミュレーション、プレゼンテーションなどの能動型学習を展開できる、世界でも最先端の設備を有する教室。
(5)ミラーリング  他の人の行動を繰り返すことを通じて学習することをミラーリング(学習)という。レポートの内容を執筆者になり代わって発表するような「ロールプレイ」や、ミニッツレポートの交換採点などがこれに含まれる。このような学習により、思考プロセスの相互点検が可能となる。
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