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    卓越する大学2016 特集[ Special Interview ] 藤嶋 昭 先生


    ――ノーベル賞級の成果として世界的に高い評価を受け、「本多・藤嶋効果」で知られる光触媒の研究が、社会のさまざまな分野で実用に供されています。

     2013年度の光触媒国際研究センター開設から同センターでは、地球温暖化の原因である二酸化炭素の有効利用や太陽エネルギー、人工光合成、環境浄化などの研究を推進し、多くの成果を挙げています。
     例えば、今はどの家でも水道管の蛇口をひねると水が出てきます。それと同じ考えで、太陽の光が直接出てくる“光道管”のプロジェクトが進んでいます。その光を利用して、光触媒と組み合わせることで、風呂場の鏡を曇らなくしたり、室内の臭いを取り除くことができます。また光触媒で浄化した水を利用し、イチゴ・レタス・トマトの栽培などにも取り組んでいます。
     みなさんの身近では、東京駅八重洲口にあるグランルーフという真っ白なテントの屋根に光触媒がコーティングされています。光触媒を塗ることで汚れにくくなります。ワールドカップが行われたブラジルのサッカー場にも使われています。2020年の東京オリンピックのマラソンコースでは道路に光触媒をコーティングし、道路が汚れずさらに空気をきれいにする計画もあります。

    ――50年前から手がけて研究が進化し、いまようやく花開いています。優れた業績が理解されるのには時間がかかるのですね。

     43年前の1972年に『Nature』誌に論文が掲載されましたが、研究はネイチャー誌掲載からさらに6年前にさかのぼります。偶然にも酸化チタンの単結晶に出会ったのです。
     当時は、水の電気分解の実験に光を感じるものを使うとどうなるかという研究が世界的に注目されていました。そこで私は、この酸化チタンを電気分解の電極に使ってみたのです。もう一方の電極には白金を使い、酸化チタンの電極を水中に入れ光を当てたところ、ぶくぶくと泡が出てきました。酸素でした。水の電気分解は電圧をかけないと起こらないはずが、光を当てるだけで起こった。光合成に近い反応が人工的に作り出せたのです。
     しかし、当初はまったく認められませんでした。学会で発表しても「そんなことは聞いたことはない。もっと勉強してから発表するように」と言われました。

    基礎から最先端へ パスツール型の研究

    ――藤嶋学長の研究は基礎的研究から最先端の研究へと繋がっていきました。基礎と応用には差異があるのでしょうか。

     研究者は3つに分類されるといいます。基礎だけやる研究者、それはボーア型研究者と称されます。ボーアとは、デンマークの物理学者ニールス・ボーアのことで、量子論の育ての親として原子物理学の基礎を作った科学者です。もう一つは、完全に応用だけの研究者でエジソン型と呼ばれます。最後が、基礎から始めて社会に役立つ応用まで進む研究者で、パスツール型と言われます。フランスの免疫学者ルイ・パスツールになぞらえたものです。私は、酸化チタンを使って水を分解できるという基礎から始めて、その基礎を光触媒に発展させて、いま世の中に普及させているということで、パスツール型という評価をいただきました。
     ロマン・ローランは「ピラミッドも頂上からは作れない」と語っています。なぜ4600年前に作られたピラミッドが今でも残っているかといえば、それは基礎がしっかりしていたからです。基礎がないと生き残れないんですね。私の光触媒も、基礎があって現在の最先端の研究に生かされているわけです。

    セレンディピティとセンスと雰囲気が必要だ

    ――素晴らしい研究をするために必要なのは、いったい何なのでしょうか。

     セレンディピティという言葉があります。イギリスの政治家で小説家のホレス・ウォルポールが1754年に生み出した造語で、彼が子どもの頃に読んだ『セレンディップの3人の王子』という童話に由来しています。“いいものを偶然に発見する能力”といった意味です。つまり誰にもチャンスは公平にあるが、それを見つけられるかどうかがポイントだというのです。
     それにはセンスを磨くことが必要です。センスとは何か、と問われると難しいですが、「研究の本質を素早く見抜き、新しい展開ができる能力」と言えるでしょう。そのためには感性も重要です。
     それとともに大切なのは「雰囲気」です。ある年、パリでの国際会議の合間にオルセー美術館を訪れ、印象派の絵画を堪能し、巨匠と呼ばれる天才の傑作がほぼ同時代に描かれていることに気がつきました。しかも、ルノアールとモネは同じアトリエで学び、ゴッホとゴーギャンも同じ家に住んでいたことがあった。お互いに切磋琢磨できる友人がいて、雰囲気がいいと予期せぬことができてしまうのです。

    ――では、センスを磨くにはどうしたらいいのでしょうか。

     ありふれた身の回りのことに関心をもつこと、そして比べることの面白さを知ることです。身の回りには、面白いことが溢れています。最も大事なのは、小学生のときから感度を磨くことです。「空や海はなぜ青いか」「雲はなぜ白いか」「宇宙には、果てがあるのか」─。そんな当たり前のことに興味を抱くことが、実は一番大切なのです。学問や研究の意義や原点はまさにそこに潜んでいるといっていいでしょう。

    天にある宝を科学・技術で探し出す

    ――東日本大震災から4年半余が経過しましたが、復興はまだ途上で、将来のエネルギー問題や環境問題が改めてクローズアップされています。

     将来のエネルギー問題は100年後、500年後の人類がどうなっているかというスケールで考えなければなりません。そのころエネルギーとして残っているのは、太陽エネルギーだけです。あと50億年は大丈夫という太陽エネルギーの研究が、その重要性を増しています。それは、水の光分解、人工光合成の研究の比重が大きくなっているということでもあります。その意味で、私の手がけた光触媒の研究がその一翼を担っているのはうれしいことです。

    ――先生は、科学技術の最終目的とは「天寿を全うする」ことであると言われます。

     私は「物華天宝」という言葉を座右の銘としています。中国の方からいただいた掛け軸に記されていた言葉で、「産物は天にある宝だ」という意味のようですが、私は「物」とは科学・技術のことで、天にある宝である自然現象を科学・技術を使って探し出すのだ、と解釈しています。実は、「物華天宝」の後には「人傑地霊」と続きます。人傑は良き人物、地霊は雰囲気と読み解くことができます。つまり、良き友や指導者、そして雰囲気が大切であるということで、人類の役に立つ研究をするということは、「物華天宝 人傑地霊」に尽きるのではないでしょうか。天寿を全うしたいという人々の希望を叶える研究をしたいと思っています。